桜
お守り
どうしよう…
大切なものをなくしちゃった…
僕の大切な宝物…
どこで落としたんだろう?
怨霊と戦っている時?
でも、僕いつも落とさないように気をつけていたのに…
それじゃ、歩いている間に落としたの?
どうしよう…探さなきゃ………
「詩紋?」
「え?あ、イノリ君…」
僕が下を向いて探しているとき、不意に声をかけられて、
振り向くと、イノリ君が不思議そうに僕を見ていた。
「何やってんだよこんな所で?」
「えっと…」
「探し物か?さっきから下向いてウロウロしてるけど…」
「違うんだ!転ばないように下を向いて…」
「はぁ?お前何言ってんだよ!さっきっからおんなじところ
ぐるぐる回ってんじゃん!何探してるんだよ!!」
「違うの!僕は…」
ごめんねイノリ君…嘘ついて…
でもね、言いたくなかったんだ…
だって、あれは僕と…
「何してんのイノリ君?行くよ?あれ?詩紋君??」
「え?あかねちゃん!!それに、泰明さんも…」
「どうしたの?何か困ったことでもあった?」
「え?」
「困った顔をしてるよ…?」
あかねちゃんが心配そうに僕を覗きこんだ。
どうしよう…
あかねちゃんに心配かけてる…
でも…
「…気が乱れている…」
「え?」
そっか…
あかねちゃんの今日の散策は泰明さんとイノリ君だったんだ…
「何でもないんです泰明さん!僕…」
「何でもないようには見えないけど?」
「さっきからこの調子なんだぜ!俺達に何隠してんだよお前!!」
イノリ君が僕の肩を強引に組んだ。
「ごめんイノリ君…でも、本当に…」
「…詩紋君…言いたくないならいいけど、
私達力になるから、話せるようになったら話してね?」
「あかねちゃん…」
「ったく、一人で何でも背負い込むんじゃねーぞ?」
イノリ君が軽く僕の頭を小突いた。
なんか、うれしいよ…
「ありがとうイノリ君…」
「詩紋…」
「なんですか泰明さん?」
「…探しているものは、ここにはない。」
「…え?」
「何か探してんじゃんやっぱ…」
「イノリ君!いいじゃない…ほら、行くよ?」
「おい!待てよあかね!!」
あかねちゃんとイノリ君は先に歩いていった。
「あの…泰明さん?」
「もっと近くだ…お前が気づいていない。それだけだ。」
「え?あの?!」
泰明さんはそう言うと黙ってあかねちゃんの後を追って行っちゃった…
ここにはないの?もっと近く??
どう言うことだろう…?
暗くなるまで探していた僕は、今日はあきらめて藤姫の屋敷に戻ることにした。
どうしよう…
あの人からもらった僕のお守りなのに…
「…詩紋君?」
「…え?」
屋敷につくと、外で暗い中ちゃんが立っていた。
「どう…して?」
「こんな遅くまでどうしたの詩紋君!
皆帰ってきてるのに、詩紋君まだだって言うから…」
え?もしかして、僕のこと心配してくれて待っていてくれたの?
「あの…」
「どうしたの?何かあった?」
「え?」
「悲しそうな顔をしてる…」
「ちゃん…」
僕は、ちゃんの優しさにほっとして、涙が出そうになった。
でも、だめだ…ちゃんとしなきゃ…
ちゃんとちゃんに謝らなきゃ…
「あのね…」
「ん?」
「ごめんなさい。」
「え?」
「僕…折角あなたにもらった大切な…なくしちゃった…」
「え?」
「僕、うれしくていっつも身につけていたんだ…
あなたからのプレゼントは、僕にとってお守りになるから…
でも…その大切なお守りを…」
僕は俯いたまま呟いた。
「詩紋君…」
「…え?」
優しい声に思わず顔を上げたら、ちゃんがそっと抱きしめてくれた。
「ちゃん?」
「…そんなことで気を落とさないでよ…お守りなら、詩紋君を守ってくれて、
役目が終わったから消えたのかもしれないでしょ?」
「でも…」
「詩紋君が無事ならそれでいいじゃない…」
「でも…」
「はまた作ればいいじゃない?
でも、詩紋君は一人しかいないんだよ?
こんな暗くなるまで一人で出歩いて…心配したんだから…」
そう言ったちゃんは腕に力を入れた。
「ごめん…ごめんねちゃん…」
僕はそう言うと、思わずちゃんに抱きついた。
それから、僕達は一緒に屋敷の中に入り、夕飯を食べて、
僕は自分の部屋に入った。
そして、上着を脱いだとき、ふと机の下に何かが落ちていることに気がついて、
それを拾い上げた。
「あ〜〜〜!!!」
思わず大声をあげちゃった僕は、焦って口を抑えた。
「どうした詩紋!!」
「ご…ごめんなさい頼久さん…なんでもないんです…」
「しかし、いきなり大声なんか出して…」
大声に驚いて部屋に入ってきた頼久さんにいいわけをしている間、
天真先輩も顔を出した。
「どうした詩紋!!」
「天真先輩…なんでもないんです…」
「何でもなくて大声出すか?なぁ頼久?」
「普通は出さないな…」
「だろ?何があったんだよ詩紋!」
「本当に何でも…」
「どうしたの詩紋君!!」
あ〜あ…皆集まってきちゃったよ〜…
「ごめんなさい!本当に何でもないんです…」
僕が理由も言わずただ謝るばかりだから、皆困ったように顔を見合わせてる…
「ふぅ…まぁ、本人がそう言うのなら、深く追求せぬ方がよいな…」
「ごめんなさい…ありがとうございます頼久さん…」
「まぁ、詩紋が何でもないならいいんだけどよ…」
天真先輩がポンポンと僕の頭を叩いた。
「ごめんなさい天真先輩…」
「今日の詩紋君おかしかったから、あんまり無理しないでよ?」
「うん、ごめんねあかねちゃん…」
やっと皆が自分の部屋に戻って行こうとした時、僕はとっさにちゃんを呼びとめた。
「あの!」
「え?」
「えっと…」
「何かあったの?」
「あの…見つかったんだ…」
「え?」
「あなたからもらった大切な僕のお守り…この部屋に…」
「そっか!見つかって良かったじゃない!」
「…ありがとう。」
ちゃんが笑顔でそう言ってくれたから、僕も笑顔でお礼が言えた。
「それじゃ、私部屋に戻るね…」
「ごめんなさい大声なんか出して…」
「気にしない気にしない!詩紋君がなんでもないならそれでOKでしょ♪
それに、呼んでくれればいつでも来るからね!」
「ありがとう…僕も、あなたのところにはすぐに行けるようにするから!」
「うん。頼りにしてるよ?私のお守りさん。」
「え?」
「オヤスミ〜!」
ちゃんはそう言って笑顔で部屋に戻って行った。
僕がちゃんのお守り?
なんか、うれしいな…
そうだ!明日、おそろいのを作ろう!
ちゃんのお守りになるように…
もらってくれるかな?
僕みたいにお守りにしてくれるかな?
僕は大好きなちゃんからもらった大切なお守りを握り締めた。