伝えきれないよ
伝えきれないよ


いつも死と隣り合わせの生活だってことは、分かっているつもりだった・・・

だけど、どこかで私は高を括っていたの・・・

あなたはいつも私の傍にいるって・・・
いつも笑顔で私の傍にいてくれるって・・・

だから、私はあなたに気持ちを打ち明けなかった。

ううん・・・違う・・・私はあなたに気持ちを伝えられなかったの・・・
怖かったから・・・
伝えて、あなたが私の前から消えるのが怖かったから・・・
だけど・・・ちゃんと伝えておくべきだった・・・


「・・・え?」
「だから!!蔵馬が妖怪に殺され・・・」

嫌・・・聞きたくない!!
私は耳をふさいでしゃがみこんだ。

「おい・・・大丈夫か?」
「どこ・・・」
「あ?」
「今蔵馬どこ・・・?」
「蔵馬なら・・・」

私はそれからどこをどう歩いたか覚えていない・・・
だけど、気がついたら、さっき幽助に教えてもらった部屋の前についていた。
震える手でそっと扉を開けると、蔵馬は眠るように穏やかな顔でベッドに横たわっていた。
私はそっと蔵馬に歩み寄った。

穏やかな顔・・・
顔には傷一つついてない・・・

蔵馬の穏やかな顔を見た瞬間、私の目からは涙が零れ落ちた。

いつかはこうなるってこと気づいてた・・・
だけど、まさかこんなに早く訪れるなんて・・・


「どうして・・・」

私はこぼれる涙をぬぐいもせず、答えることの無い蔵馬に語りかけた。

「昨日、簡単な仕事だって言ってたじゃない・・・
馬鹿だよ蔵馬・・・こんな姿で帰ってくるなんて・・・
『明日、コエンマの仕事を片付けて帰ってきたら、一緒に遊びに行こう』って言ったの蔵馬でしょ・・・
私待ってたんだから!!すごく、うれしかったのに・・・
初めて蔵馬に誘われて・・・楽しみに待ってたんだから!!
初めてのデートだって・・・今日こそは、蔵馬に気持ちを伝えようと思ってたんだよ!!
馬鹿みたいじゃん・・・一番私が馬鹿だよ・・・なんで・・・なんで何にも伝えて無いのに逝っちゃうのよ!!!」

私は横たわっている蔵馬にすがりつくように泣き崩れた。

どのくらい泣いていただろう?
私はまだ涙が止まらないまま顔を上げた。

「・・・好きだよ蔵馬・・・ずっと前からあなたが好きだったの・・・
ごめんね・・・素直になれなくて・・・ずっと伝えたかったのに・・・
早く伝えておけばよかった・・・そしたら、こんな苦しい思いをしなくてすんだのに・・・」

私はそっと立ち上がって涙をぬぐうと、蔵馬の顔を覗き込むように近づいた。

「おやすみ蔵馬・・・ずっとずっと好きだから・・・」

冷たい蔵馬の唇にキスを落とすと、私はその部屋から出ようと蔵馬に背中を向けた。



扉を開けようと手をかけた瞬間、私は背後に気配を感じ、振り向いた。
すると、蔵馬が体を起こし、ちょうど私の方を見る光景が目に入ってきた。

「蔵・・・馬?」
・・・?」
「蔵馬!!」

私は思わず蔵馬に抱きついていた。

「あ・・・?一体どうしたんだ?」
「馬鹿馬鹿馬鹿!!!蔵馬の大馬鹿!!!」
?泣いているの?」
「泣いてなんかない!!」

私はベッドに腰掛けている蔵馬の首に強く抱きついていた。

「どうしたんだ・・・」

蔵馬はそう言って、私の体を優しく抱きしめてまるで子供をあやすかのように背中をさすってくれてる・・・
さっきまであんなに冷たかったのに・・・
今の蔵馬は暖かい・・・
私はゆっくりと蔵馬から離れると、泣いて荒れている呼吸を整えようと、軽く深呼吸をした。

?」
「幽助から、蔵馬が妖怪に殺されたって聞いて、私目の前が真っ暗になった・・・
そして、気づいたらここにいて・・・蔵馬の顔見たら、もう涙が止まらなくて・・・」

私は再び流れ落ちる涙をこらえて、話し続けた。

私、何言ってるんだろう?

「いつかは、こんな日が来るってこと気づいてた・・・
だけど、こんなにも早く来るなんて思ってもみなくて・・・
蔵馬はいつまでも私達の・・・
私の傍にいて、優しく微笑んでくれてると思ってたから・・・
だから・・・蔵馬が死んだなんて信じられなかった・・・
だけど、ここにきたら蔵馬、本当に・・・」

私はもうこらえきれなくなって、手で顔を覆った。

伝えなきゃいけないのに・・・
今だからこそ、言わなきゃいけないのに・・・

「ごめん・・・心配かけて・・・でも、俺は・・・」
「好き・・・」
「・・・え?」

私は顔を上げると、まっすぐ蔵馬を見つめてそういいきった。

「私は蔵馬が好き・・・」
・・・?」
「ずっとずっと前からあなたのことが好きなの・・・
何も伝えないうちに蔵馬が死んだと思って・・・
私、すごく後悔した・・・だけど、蔵馬はこうして生きてるんだもん・・・
伝えなきゃ・・・そう思って私・・・」
「ありがとう。」

いっきに自分の想いを言った私に、蔵馬は優しく微笑んでお礼を言った。

どういうこと?


「俺も、が好きだよ。攻撃を受けて、死ぬかと思ったとき君の顔が頭に浮かんだんだ・・・
伝えなきゃいけないことがいっぱい有るのに、まだ何も伝えてない・・・
だから、もし生きていられるのなら、君にこの気持ちを伝えようと思ってたんだ・・・」

蔵馬はそう言ってそっと私の頬に手を当てると、優しく涙をぬぐった。

「俺は君が大好きなんだ・・・言葉では伝えきれないほどね・・・」

そう言って優しく微笑むと、蔵馬はそっと私に口付けた。




やっと伝えられた・・・
だけど、これだけじゃ私の気持ちなんか伝えきれないよ・・・
でも、大丈夫。これから長い年月をかけて、私の気持ちを伝えていくんだから・・・
覚悟しててよ蔵馬?





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