お題
III

そして、次の日の朝、は朝一でオレの所に顔を出した。

今、オメーに会うのは勘弁したかったぜ・・・
今のオレじゃ・・・オメーを祝福できねー・・・
きっと・・・オメーを傷つける・・・

「おはようございますゼフェル様!」
「あ?ああ・・・」

そっけない返事がオメーは敏感に感じ取ったのか、心配そうな目でオレを見つめた。

「あの・・・どうかされたんですかゼフェル様?」
「あ?何でもねーよ・・・」


オメーのせいだろ・・・


なんていえるわけもなく、残酷にもオレに幸せそうな笑顔を向ける
オレはイライラをつのらせた。

「あの・・・私何かゼフェル様の気に障るようなことしました?」
「別に・・・育成だろ?力送っとくからさっさと行けよ・・・
オレなんかよりランディのところにでも行った方が楽しいだろうしな・・・」
「そんな・・・」

今まで視線を合わせないようにしていたオレだったけど、
今の言葉で傷ついたような声を出したに視線を向けた。

すると、は目にいっぱいの涙をため、泣くのをこらえていた。

「お・・・おい・・・」
「すみません・・・失礼しました!」

は逃げるようにオレの執務室から走り去った。
きっと、今頃ランディの執務室に駆け込んでんだろうな・・・

そんなことを考え、深いため息をついたオレは、椅子に座って天井を見上げた。

「馬鹿みてー・・・」
「そうですねー・・・あなたは馬鹿かもしれませんねー。」
「あ?」

いつの間にか入ってきていたルヴァの声にオレは驚いて視線をルヴァのほうに向けた。

泣いてましたよ?」
「あっそ・・・」
「・・・あなたが泣かしたのでしょう?」
「だったら、なんだよ・・・慰めるならオレより他に適任者がいるだろ・・・」

オレはそう言って外に視線を向けた。

「本当に・・・恋は盲目といいますが、一番悪い方向に進んでしまったみたいですねー・・・」
「はぁ?何が言いたいんだよアンタ!」

さっきのアイツのことと、ルヴァのわけ分からない言葉に腹が立ったオレは、勢いよく立ち上がった。
その拍子に椅子が大きな音を立てて倒れた。

「大きな音が聞こえたけど、どうしたんっだゼフェル・・・あ、おはようございますルヴァ様・・・」
「あぁ、ランディ。おはようございます。」
「なんでオメーがここにるんだよ・・・」


オレは目の前の風景が信じられなかった。
なんでこいつがここにいるんだよ!!


「何を言ってるんだゼフェル?」
「なんでオメーがここに!アイツは!!」
「あーゼフェル、何があったのか落ち着いて説明してください。」
「アイツって、のことかゼフェル?」
「オメーの所に行ったんだろ!!何ほっぽってノコノコ歩き回ってるんだよ!!」

オレはランディの顔を見たとたん、怒りが最高潮にのぼり、ランディの胸倉をつかんだ。

「やめろよゼフェル!!」
「あー、やめてくださいゼフェル!」
「うるせーよ!!アイツは、オメーに・・・」
「何を言ってるんだよお前!」
「とぼけんなよ!何平気な顔してんだよ!!」

そう、泣いてたアイツをほっといて平気な顔をしているランディが、殺したいほどむかついた。

「何を騒いでおる!」
「あー、ジュリアス・・・良いところに・・・」
「よせゼフェル。落ち着け!」
「落ち着いてられるかよ!!」

オレは、オレをランディから引き離したオスカーにつかみかかった。

「いい加減にせぬか!!何があったルヴァ・・・」
「それがですねー・・・私もよく知らないのですが、ここに来た時とすれ違いまして…」

オレはむかつたまま窓辺に座った。

「泣いていただと?お嬢ちゃんがか?」
「えーそうなんですよオスカー…」
「ゼフェル!お前!!」
「お前は少し黙っているんだランディ。」
「でも、オスカー様!!」

今にもオレに殴りかかってきそうなランディをオスカーおさえてやがる。

「ゼフェル・・・何があったのだ?」
「別になんでもねーよ・・・」
「別になんでもない分けないだろ!」
「なんでもねーっつってんだろ!!」

オレはランディに怒鳴った。
そうだよ…
アイツ今ごろ…

と何かあったのかゼフェル?」
「しらねーよあいつのことなんて!」
「ゼフェル!」

オレは思いっきり頬に激痛を感じた。
オスカーの静止をフリきり、ランディの野郎が殴りやがった。

「なにすんだテメーは!」
「ヤメロと言ってるだろう!!」

思わず殴りかかったオレとランディをオスカーが引き離しやがった。

「どけよオスカー!そいつぶん殴る!」
「ジュリアス様の前で、お前達いい加減にしろ!」
「誰の前でも関係ねーよ!オメーがそんな薄情な奴だったなんて知らなかったぜランディ!」
「さっきから何を言ってるんだよお前は!薄情はのはお前だろ!!」
「っんだと?!」
「ヤメロ二人とも!!」
「離せよオスカー!」

もう一度ランディに殴りかかろうとしたとき、誰かがオレとランディに近づき、次ぎの瞬間
'パンッ'
という乾いた音が二つ鳴り響いた。

頬に軽い痺れを感じ、驚いて見ると、マルセルが険しい顔で立っていた。

『マルセル!』

そこにいた全員が驚いてマルセルの名前を呼んだ。

「何するんだマルセル!」
「二人とも、こんなときに何喧嘩してるの!!」
「テメー、だからって、いきなり叩くことねーだろ!!」
「こうでもしなきゃ、二人とも喧嘩止めないでしょ?」
「何だと?!」

オレの怒りがマルセルに向かったとき、マルセルは静かに…
でも、どこかキレタように口を開いた。

「…泣いて走ってったよ?どうして二人とも慰めに行かないの?」
『それは…』

オレとランディの声がハモッた。

「二人とも、が好きなんでしょ?だったら、どうして…」
「俺じゃダメなんだよマルセル…」
「え?」

意外なランディの言葉にオレは一瞬驚いてランディを見つめた。

「彼女を慰めてあげられるのは、俺じゃ役不足なんだ。」
「テメー何言って…アイツはオメーのこと…」
「俺のこと?ゼフェル…まさか勘違いしてるんじゃないか?」
「だって、昨日だって…」
「昨日?お前見てたのか?!」
「いや、たまたま目に入っただけで…」

オレがばつ悪そうに目をそらすと、ランディは軽く溜息をついた。

「はぁ…あのなゼフェル…昨日は、相談を受けてたんだ…の恋の相談を…」
「え?」


オレは頭を金槌で殴られた感じがした。


嘘だろ…だって、アイツはランディのこと…


「彼女は他に好きな人がいる。俺じゃダメなんだ…」
「嘘…だろ…」


オレは、自分がやったことに血の気が引く気がした。


「早く行けよゼフェル…行って謝ってこいよ。」
「で…でも、今更…」

そう、許してくれるわけ無い…

「ゼフェル?彼女なら許してくれると思うし…礼儀でしょ?」
「マルセル…」

それでも行くことを渋ってるオレに、ジュリアスが命令を下しやがった。

「ゼフェル…お前はこれからを探し出し、彼女に謝るのだ。」
「な…なんでだよ?!」
「命令だゼフェル。」
「なっ?!汚ねーぞジュリアス!!」
「分かったなら、さっさと行ってこいゼフェル。じゃないと、オレがお嬢ちゃんを慰めに行ってもいいんだぞ?」
「…分かったよ!行けばいいんだろ行けば!!」

オレは全速力でアイツの部屋に向かった。

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